道路を横切る家族Sさんが友人達と車でスキーに向かう途中のことである。夕方から夜になりかけた峠の道路にさしかかった時、急に母親と子供の二人連れが車の前に飛び出した。あわや、と思った瞬間、無事に道路を横切ったようだ。サイドミラーに道路の反対側にいる親子の影が見える。「危ないなぁ」しばらく行くと、またヘッドライトにふたりの人影が飛び込んでくる。「あっ!」 母と子供の二人で、冬の山頂での服装とは見えような軽装、最初に道を横切った親子連れとおなじである。2,3キロほど走るとまた、人影が飛び込んできた。それが何度も続いたのである。翌日、ホテルで仲良くなった人に昨夜のことを話してみると、その人も「うちの近くにもでましたよ」と言う。 母と女の子の二人連れが車の前に飛び出して、さっと道を横切る。そのいでたちは季節に関係なくいつも同じように軽装である。 その人の住む所は例の峠とはまったく関係のない所なので、ひょっとしたらあの二人連れは日本のあらゆる道路にいるのだろうか、と、そっちの方の不思議さにちょっと好奇心をかきたてられた、とSさんは言う。 角川文庫『新耳袋 第一夜』より ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|